給料から天引きできますか?


質問
私は、工場の経営者なのですが、工場の社員による会社の金の使い込みが発覚しました。社員は妻子ある身で、使い込んだ金の返済も約束したので、刑事告訴は見送りました。しかし、その社員は、返済の約束を守らず、反省の態度も見えません。他の社員への示しもつきませんし、給料から天引きして返済に代えてもいいでしょうか。
 

回答
ご質問のケースで給料から勝手に天引きすることはできません。ただし、給料から天引きして支払うことについて社員の同意があるような場合には、認められることもあります。
 

●給料の天引きの法的評価

今回のご質問のように給料から天引きをすることは、法律上、給料支払い債務と債権を相殺(民法505条以下)したものと評価されます。したがって今回のご質問は、会社の金の使い込みという不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)と、社員に対して負っている給料支払い債務との相殺が法律上認められるかという問題になります。

●労働基準法の定め

給料は、所得税の源泉徴収などの法律上の特別の定めがある場合(所得税法183条1項など)を除いて全額を労働者に支払うことが原則です(賃金全額払の原則)(労働基準法24条1項本文)。

なお、本条に違反した場合、刑事罰(30万円以下の罰金)も予定されており(労働基準法120条1号)、注意が必要です。

●判例の状況

この点について、会社が背任行為に基づく損害賠償請求権を有していた事案で、背任行為を行った者の給料の支払い請求権との相殺を否定した判例があります(最高裁昭和36年5月31日大法廷判決)。本件の場合も判例の事案と同様、相殺は認められず、給料からの天引きはできないことになりそうです。

●例外

ただし、あらかじめ労働者が給料からの天引きに同意しているような場合には、賃金全額払の原則には反せず、天引きも認められます。この点、判例も、「労働者の自由意志に基づいてなされた」ものと認められる「合理的な理由が客観的に存在する」場合には、賃金全額払の原則には反しないとしています(最高裁平成2年11月26日判決など)。

●まとめ

質問者の方のお怒りはごもっともですが、使い込んだお金の返済方法として、給料から天引きをすることでよいかを社員に確認し、書面による本人の同意を得るなどの手続きを経た上で、給料から天引きされたほうがよいでしょう。


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