健康診断結果を伝えてもいいですか?
質問
当社の従業員には会社の指定する総合病院で定期健康診断を受けさせています。しかし、従業員の中に健康診断において血管に問題があり「要治療」という結果が出ているにもかかわらず、まったく治療を受けている形跡がない人間がいます。
会社としても治療を行うよう本人に何度も指導しているのですが、本人は聞く耳を持ってくれません。会社としても頭を悩ませていたところですが、当該従業員は、家族の言うことに逆らえないという噂を耳にしました。
そこで、会社から家族に健康状態に問題があることを伝えて、家族からも治療を開始するよう説得してもらおうかと考えています。治療を受けさせるために会社の健康診断の結果を家族に伝えてよいでしょうか?
回答
家族に健康診断の結果を伝えてよいと考えます。本人の生命に危険を及ぼす異常があり、治療が必要な状況が定期健康診断で明らかになったにもかかわらず、本人が治療を受けず、家族に伝えることで治療を受ける可能性が高い事情の下では、個人情報保護法との関係でも情報提供が許されるものと考えます(個人情報保護法23条1項2号)。
健康診断結果の開示
健康診断結果は、個人情報保護法の「個人情報」にあたります。また、家族であっても本人ではない以上、「第三者」にあたると解します。したがって、健康診断結果は、本人の同意を得た上で家族に伝えることが原則です。
裁判例
しかし、使用者である会社には、職場における従業員の衛生管理をする責任があるところ、本人の同意が得られない限り会社の責任が果たせないことになってしまいます。治療を受けさせるために家族の説得が有効であることが明らかであって、本人が家族に伝えることにどうしても同意しないという事情があるのであれば、家族に説得を依頼すべきでしょう。
裁判例(名古屋地判平成9年7月16日)においても、治療を開始させるために本人の同意なく本人の病状等を説明することについて、「治療を受けさせるために親族に依頼することは適切な行動である」と判断されているところです。
まとめ
本件の場合、本人に家族に伝えることに同意してもらうよう説得し、どうしても本人が同意しない場合に、担当部署から家族に情報提供するという対応になると考えます。