年俸制と残業代
質問
当社では残業する社員が多く、残業代は経営の大きな負担になっています。また、従業員の中には能力の差もあって、仕事の遅い社員が多くの残業をするため多くの残業代をもらい、能力の高い社員の方が給料が安くなってしまうといった問題もあります。そこで、就業規則を変更して給料を能力に応じた年俸制として、残業代をあらかじめ給料の中に含ませて、従業員間の不公平感をなくそうと考えました。ところが、年俸制にしても残業代の支払いは必要となるという話を聞いて混乱しています。完全能力制で決める年俸制にしても残業代は支払わなくてはならなのですか?
回答
給料を完全能力制の年俸によって決める制度にしたとしても、残業代(割増賃金)の支払い義務を免れる場合(管理監督者(労働基準法41条2項)、みなし労働時間制適用労働者(労働基準法38条の2)に該当しない場合)にあたらない限り、使用者は、残業代を支払う義務を負います。
●よくある誤解
会社の人事担当者の方もよく誤解されているのですが、年俸制は要するに、給料の額を1年単位で見直すことができるという制度に過ぎず、決して残業代を支払わなくてもよいという制度ではありません。裁判例でも「年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならない」と明確に否定されているところです(大阪地判平成14年5月17日労働判例828号14頁)。
ご相談者の方は、年俸制を残業代の打ち切り支給ができる制度として捉えておられるように感じます。しかし、残業代の打ち切り支給は法律上不可能です。残業代相当額の手当ての支給額が、労働基準法所定の割増賃金の支払額を上回っている場合にのみ、労働基準法違反の問題が生じないというだけに過ぎません。
●基本給に残業代を含める場合
ご相談者の方は、年俸の中にあらかじめ残業代として想定される賃金分を組み込んで決定しようとお考えのようです。しかし、このように基本給の中に残業代を組み込む場合には、基本給と残業代相当の給料とが明確に区別されるようにしておく必要があります。仮に、基本給と残業代相当手当とが明確に区分されない場合には、すべてを基本給と判断されてしまい、当該基本給の額を基礎としてさらに割増賃金の支払いを請求される危険性があります。