転職の期待は保護されませんか?
質問
重要な取引先の社長から熱心なお誘いを頂いて、転職をすることを決断しました。転職するにあたっては、社長から直々に慰留を受けたり、昇進のお話もいただきました。辞職届も受理されて、退職のための残務処理を進めていたところ、転職する予定だった会社の人事担当役員から連絡があって、採用できないと言われてしまいました。慌てて会社の人事部とかけあって、なんとか辞職願を撤回できました。しかし、ポストは降格された上、非常に肩身の狭い思いをしながら仕事をすることになってしまいました。私は、転職を誘った会社に責任を追及できませんか?
回答
質問者の方と転職を誘った会社との間に質問者の方の採用内定が成立したと認められる事情があって、転職を誘った会社に採用内定を取り消す正当な理由が認められない場合には、その会社に対して給与支払いを請求することや慰謝料の請求をすることで責任を追及することができます。
●内定
転職の場合でも、採用決定から勤務開始日までの間は法律上は新卒者の採用の場合と同じように、始期付解約権留保付の労働契約(いわゆる内定)が成立しているものと考えられます。
●内定が認められる場合
それでは、いつの時点で採用決定(内定)と言えるのでしょうか? 新卒者の場合には内定式が終了した後に採用内定が成立するとした裁判例(東京高判平成16年1月22日労経速1876号24頁)があります。しかし、質問者の方のような転職の場合には、新卒者の場合のように一律に判断することはできず、事情を総合的に判断する必要があります。たとえば給料や報酬、勤務開始日などが両者の間で具体的に決定されているような事情があれば、内定が成立したと評価できる可能性が高いと考えられます。
●内定取り消し
内定を取り消すためには取り消しをすべき事由があったとしても、その事由が、「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当」と認められるものでなければならないとするのが判例の立場です(最判昭和54年7月20日半夕399号32頁)
●まとめ
質問者の方の場合、転職予定の会社に客観的に合理的と認められ社会通念上相当な取消事由がない場合には、当該採用内定取り消しは違法となりますので、採用内定取り消しの無効などを主張することができます。